「はい、あなたこの前私のライブすっぽかして別のところ行ってたでしょ。チェキ2枚撮れ。命令(笑)」そういって物販ブースで並んでいるファンの対応をしている。ジュリアは大学生で、表参道を歩いているときに事務所の社長と名乗る人物に声をかけられて、名刺を渡された。新しいアイドルグループを作りたくて人を探しているとのことである。えてして怪しいものではあるのだが、社長がずいぶん熱心であることと、ホームページを見ると実際に2~3グループが活動をしているのを見て興味が湧き、所属のグループの子がいるところに出向きライブハウスを往来しているメンバーの子を見つけ腕をつかんで「ちょっといいか」と話を聞いた。どうやら社長は本業がIT関係の仕事で、アイドル好きが高じて自分でもアイドルグループを作りたいと考えて事務所を設けたということだった。そのため資金には困っておらず、アイドルの子が不当な扱いを受けているということもないらしい。それを聞いて事務所に入ることに決め、今は4人アイドルグループの一員として活動をしている。

アイドルといってもいわゆる「地下アイドル」だ。表舞台に立つことはなく、まさしくライブハウスの地下で活動を行っている。アイドルは飽和状態で、みんなコンセプトがどうのこうの言っているが、パッと見何の変わり映えもしないような子たちがいっぱい集まっている。ジュリアはほかのアイドルなんか消えてなくなれ、せめて半減しろ、といつも思っている。

楽屋で今日ファンにもらったお菓子など、テーブルに広げる。ケータイを取り出してそれらがうまく収まるように構図をあれこれ思案し、写真に収めた。日持ちのしない回転焼きを口の前にもっていき、自撮りをした。「はい、マネージャー鞄出せ」そういってマネージャーに鞄を要求し、テーブルに広げたもらい物をどんどん詰めていった。「はい、今日の、分!」そういってマネージャーに鞄を渡し、回転焼きをマネージャーの口に突っ込んで早々に立ち去った。

「今日もたくさん差し入れありがとう!回転焼きはすぐにいただきました(笑)」電車の中でブログに写真を載せ、今日の感想と次のライブの告知までの文章を書いた。「今日のライブも最高だったよ!回転焼きはおいしかったかな?また持っていくね!」よしりんからさっそくコメントが入った。

「・・・チッ」

次のライブのためライブハウスに入った。一日長時間ライブは行われている。後半の出場のため遅めに入ったので、すでにライブは始まっている。そこで耳に飛び込んだ歌声につい立ち止まった。実にのびやかで聞いていて心地いい歌声である。見たことない子が一人、アニメソングをカバーして歌っている。「こんにちは、優です。きっと・・・始めましての人が多いと思います。はい。 えーと、歌ったり、踊ったりするのがすきで、みなさんの前で歌いたいなと思って・・・でてきちゃいました」不慣れな感じが逆に初々しさというものを伝え、いい印象を与えている。

「・・・チッ」