注文し終わり携帯をいじって時間を潰そうとポケットから携帯を取り出そうとするとフフッと声を押し殺した笑い声が聞こえる。

声が聞こえた方へ視線を向けると同席の絶世の美女がクスクスと笑っていた。
 
僕はどうして笑っているのかという疑問を微塵も思わないほど美しくそしてどこか愛らしい可愛さを兼ね備えた笑顔に見惚れていた。
 
彼女は笑ったまま視線を僕の方に向けてきた。
 
思わずドキッとしてしまい視線を外してしまう。
 
「好きなの?」
 
「えっ?」
 
ふいに話しかけられた予期せぬ言葉に反応できなかった。
 
「好きなの?お肉」
 
「好きです」
 
動揺が収まらずオドオドした挙動不審な態度でなんとか対応し、この場のシチュエーションだけ考えれば僕が彼女に告白したみたいじゃないか。落ち着け、落ち着け。心よ静めよ僕。ジーザス。
 
目を閉じて両手を名一杯伸ばし深呼吸をして心を静め冷静さを取り戻し、彼女に視線
を戻す。
 
「あまりにも早くメニュー決めるものだから余程お肉好きなんだなって思って笑っちゃった」

飾りっ気などまったく見られないが、それがまた彼女の持つピュアな可愛さがありありと浮き上がっているようで、むしろ自然体の方がとても魅力的に見える。

人間不信の僕でさえ彼女はいい子なのではないかと錯覚してしまうほどだ。

「ああ、いつもあんな感じです。僕、肉しか食べませんからメニュー決めるの早いんです」

「そんな偏った食生活身体に悪いよ。ちゃんと野菜も食べないとダメだよ」

「野菜かー。別に嫌いではないですけどわざわざ買ってまで食べようとは思わないですね。ハンバーグに付いてくるブロッコリーみたいな付属野菜は食べますけど」

「お家のご飯で野菜出ないの?」

「一人暮らしなので出ないですね」

「ご両親は?」

「僕が小さいとき事故で亡くなりました」

彼女は聞いてはいけないことを聞いてしまったと思ったのか気まずそうな様子でごめんなさいと謝って来る。

「気にしてないので大丈夫ですよ。親がいないことについて何とも思っていないので」

「そうなんだ。強いんだね」

そう言った彼女の顔はどこか悲しそうな顔をしていた。

それは僕に向けられたものではなく、遠い誰かを思ってのことな気がした。