僕らは進む、青空の下

今日は合唱部が休みらしく、

空いていた別の音楽室へ入った


二人で向かい合って目を合わせる

すると突然、前川が泣き崩れた

「っ……先輩ひどっ、いです……」


嗚咽の混じった声で責め立てられる


「ほ、本当にごめん!!

昨日の帰り、親にお使い頼まれてて急いで帰ったんだ

だから前川とさよならも言えなかった」

「…………え?」
「……先輩、私が何で泣いてたか、分かりますか?」

え、何その質問


「俺が前川に、さよならって言わなかったからだろ?」


すると今度は呆れたような顔をされた

「先輩……昨日が何の日か、分かりますか?」

「昨日?俺と前川が付き合い始めて一週間、とか?」

「違います、そんなに経ってません」

バッサリと切捨てられる
他は……何かあったっけ……


俺が頭を悩ませていると


「昨日は私の誕生日です!!」

痺れを切らした前川が答えを出した

……って、え?

「そうだったの!?」

「そうですよ……

彩花とかに聞いて知らないフリしてるのかなって思ってたのに

物じゃなくても、言葉だけでも良かったのに……」

大きな目から大粒の涙が零れ落ちた
「わ、え……ほんとすみませんでした!!」

泣き続ける前川にどう対処すれば良いのか分からない

…………そうだ!

「明日っ、明日あげるから!

いっぱい買ってくるから!!」


「……ほんとですか……?」

そっと顔を上げる前川

「おう!だから練習に戻ろう」


「……はいっ!」
出欠ギリギリになって戻ると、

前川を見て皆が驚いていた


目は真っ赤ではあるが、

その顔は花のように笑っていた───
彼女が入部してきた時から、

俺は彼女に惚れていた


だが俺は、彼女に告白する前に、

その思いを諦めざるをえなかった


真太郎が彼女と付き合い始めたのだ

許せなかった

今までのあのチキンぶりは何だったのか、と


そして諦めようと思っても、

この気持ちはそう簡単には消えてくれない


真太郎、待ってろよ……

お前の女を、いただきにいく───
前川が……というか女子が好きそうな物が分からず、

同じ二年のトランペットパートにしてファーストを担当する、

女子力高めの男子、奏人(タクト)に買い物についてきてもらった


「……で、何買ったらいいと思う?」

「最初から俺に頼る気かよ!」

「だって分かんねぇし」

「自分の彼女の事くらい自分で考えろ!」
コントのようなやりとりに、

周りにいた客がじっとこっちを見ていた

恥ずかしくなって口を噤む


そして暫く、男子二人の奇妙な買い物は続いた───
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翌日、綺麗に包装されたプレゼントを抱えて、

学校へ向かって走っていた


早く前川に渡したい!

あまりにも夢中で走っていたら

ガッ

「うおっ!?」

コンクリートの割れ目に躓いた


え、何かプレゼントから嫌な音が……

……壊れてたら謝ればいいか!


そしてまた、学校へ向かって走り出した