僕らは進む、青空の下

音楽室へ駆け込み、前川の姿を見つけると、

俺は前川へ走り寄った

「前川!」

「あ、先輩!」

俺の方を向いて、期待に満ち溢れたような顔をする前川


「練習、頑張ろーな!」

俺はそう言うと、楽器庫へと駆けていった

よし!前川の顔を見て、やる気が充電されたぞ!

今日も夏コンに向けて頑張ろう!!


「え、あの、先輩……?」

そんな前川の呟きなど気付きもせずに───
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放課後の練習が終わった後、親からお使いを頼まれていた事を思い出し、

前川に「さよなら」も言わずに帰ってしまった


そして今日はその翌日──土曜日


前川、悲しんだだろうか

もしかして……泣いただろうか

俺のために泣いてくれたら本望だが、

そんなの見ていられない


早く前川に謝らなければ!


重かった足取りが嘘のように、

遅刻常習犯は学校へ駆け出した


いつもは出欠ギリギリだが、

いつも以上に走ったためか、10分も余裕があった


音楽室の中へ入ると

「……っ!?嘘……だろ……」


そこには、親友の香坂に背中を撫でられながら、

涙を流す前川がいた
「ま、前川っ」

前川の元へと駆け寄ると、

前川と香坂は同時にこちらを向き、

俺をキッと睨みつけた


「本当にすいませんでしたぁ!!」

がばっと頭を下げる

それでも尚、表情の変わらない前川と香坂


俺の声が大き過ぎたために、

練習をしていた人も皆こっちを見ている
し、視線が……痛い……

「ば、場所を……変えないか……?」

耐えられなくなった俺が提案する


前川が暫く考える素振りを見せる


「美子ちゃん大丈夫?」

「……うん。平気だよ、彩花」

心配そうな香坂に微笑むと、

前川はゆっくりこちらへ近付いてきた
今日は合唱部が休みらしく、

空いていた別の音楽室へ入った


二人で向かい合って目を合わせる

すると突然、前川が泣き崩れた

「っ……先輩ひどっ、いです……」


嗚咽の混じった声で責め立てられる


「ほ、本当にごめん!!

昨日の帰り、親にお使い頼まれてて急いで帰ったんだ

だから前川とさよならも言えなかった」

「…………え?」
「……先輩、私が何で泣いてたか、分かりますか?」

え、何その質問


「俺が前川に、さよならって言わなかったからだろ?」


すると今度は呆れたような顔をされた

「先輩……昨日が何の日か、分かりますか?」

「昨日?俺と前川が付き合い始めて一週間、とか?」

「違います、そんなに経ってません」

バッサリと切捨てられる
他は……何かあったっけ……


俺が頭を悩ませていると


「昨日は私の誕生日です!!」

痺れを切らした前川が答えを出した

……って、え?

「そうだったの!?」

「そうですよ……

彩花とかに聞いて知らないフリしてるのかなって思ってたのに

物じゃなくても、言葉だけでも良かったのに……」

大きな目から大粒の涙が零れ落ちた
「わ、え……ほんとすみませんでした!!」

泣き続ける前川にどう対処すれば良いのか分からない

…………そうだ!

「明日っ、明日あげるから!

いっぱい買ってくるから!!」


「……ほんとですか……?」

そっと顔を上げる前川

「おう!だから練習に戻ろう」


「……はいっ!」