僕らは進む、青空の下

頬に当たる風が心地よい

近くで小鳥の囀りが聞こえる


ずっと、ずっと…………


俺はここにいたーーーぃ……


ガコンッ

「いってぇ!!?」


当然ながら、今までの事は全て夢で

寝相が悪いため近くの机の足に頭をぶつけ、

別の〝いたさ〟を感じるはめになったのだった───
痛さに頭を摩りながら、

いつものように部室である音楽室へ入ると


「先輩、おはようございます!」

いつにも増して上機嫌な前川が、

とびきりの笑顔で挨拶をしてきた


「おー、おはよう」

俺もそう言って笑い返す


すると前川は何故か、俺の前にずっと立っている
「……?前川、どうした?」

俺の言葉に前川が目を見開いて驚いた表情を見せた

かと思うと今度は何故か、納得したような顔をして

「じゃあ、そろそろ失礼します

真太郎先輩、楽しみにしてますから」


そう言って自分の椅子へ座った


楽しみにしてる?

いったい何をだ?
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授業中に考えた結果

前川はきっと、放課後に俺に会うのを楽しみにしてるんだ!!

と解釈した


まったく、はっきり言わずに考えさせるなんて、

可愛いやつだなぁ


よし、音楽室へ行ったら真っ先に前川に会いに行ってやろう!
音楽室へ駆け込み、前川の姿を見つけると、

俺は前川へ走り寄った

「前川!」

「あ、先輩!」

俺の方を向いて、期待に満ち溢れたような顔をする前川


「練習、頑張ろーな!」

俺はそう言うと、楽器庫へと駆けていった

よし!前川の顔を見て、やる気が充電されたぞ!

今日も夏コンに向けて頑張ろう!!


「え、あの、先輩……?」

そんな前川の呟きなど気付きもせずに───
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放課後の練習が終わった後、親からお使いを頼まれていた事を思い出し、

前川に「さよなら」も言わずに帰ってしまった


そして今日はその翌日──土曜日


前川、悲しんだだろうか

もしかして……泣いただろうか

俺のために泣いてくれたら本望だが、

そんなの見ていられない


早く前川に謝らなければ!


重かった足取りが嘘のように、

遅刻常習犯は学校へ駆け出した


いつもは出欠ギリギリだが、

いつも以上に走ったためか、10分も余裕があった


音楽室の中へ入ると

「……っ!?嘘……だろ……」


そこには、親友の香坂に背中を撫でられながら、

涙を流す前川がいた
「ま、前川っ」

前川の元へと駆け寄ると、

前川と香坂は同時にこちらを向き、

俺をキッと睨みつけた


「本当にすいませんでしたぁ!!」

がばっと頭を下げる

それでも尚、表情の変わらない前川と香坂


俺の声が大き過ぎたために、

練習をしていた人も皆こっちを見ている
し、視線が……痛い……

「ば、場所を……変えないか……?」

耐えられなくなった俺が提案する


前川が暫く考える素振りを見せる


「美子ちゃん大丈夫?」

「……うん。平気だよ、彩花」

心配そうな香坂に微笑むと、

前川はゆっくりこちらへ近付いてきた