前川と付き合い始めて数日後のある日
部長でありテナーサックス担当の聖於実(マサオミ)先輩に、
新入生歓迎会を二週間後に行うと告げられた
この高校は、他の高校と違って、吹部内で歓迎会が行われるのだ
泉先生曰く、一つの部活として絆を深めてもらいたいそう
そして今は、学年ごとの出し物について、
各学年ごと集まって話し合っているのだが……
「歌やりたい!」
「劇でもやる?」
「何か演奏したい」
「えー、やだ」
「……じゃあどーすんだよ?」
色々と案を出す人、何故か全てを嫌がる人、それに若干キレ気味の人に分かれてしまった
毎回の恒例行事というべきか、
入部してから何度目かの二学年のケンカが始まった
俺は窓の外を眺めながら小さく溜め息を零す
そしてまた
「真太郎やる気あるの?」
怒られるわけだった───
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暫く揉めた末、結局は演奏をする事になり、
あんなにケンカをさせてくれた新入生歓迎会も、あっという間に終わってしまうのだった───
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……ここは、どこだろう
ゆっくりと目を開けて見たその光景に、
「……っ」
言葉を失った
家々が建ち並ぶ街の上を──青空を、
俺は今、飛んでいる!!
頬に当たる風が心地よい
近くで小鳥の囀りが聞こえる
ずっと、ずっと…………
俺はここにいたーーーぃ……
ガコンッ
「いってぇ!!?」
当然ながら、今までの事は全て夢で
寝相が悪いため近くの机の足に頭をぶつけ、
別の〝いたさ〟を感じるはめになったのだった───
痛さに頭を摩りながら、
いつものように部室である音楽室へ入ると
「先輩、おはようございます!」
いつにも増して上機嫌な前川が、
とびきりの笑顔で挨拶をしてきた
「おー、おはよう」
俺もそう言って笑い返す
すると前川は何故か、俺の前にずっと立っている
「……?前川、どうした?」
俺の言葉に前川が目を見開いて驚いた表情を見せた
かと思うと今度は何故か、納得したような顔をして
「じゃあ、そろそろ失礼します
真太郎先輩、楽しみにしてますから」
そう言って自分の椅子へ座った
楽しみにしてる?
いったい何をだ?
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授業中に考えた結果
前川はきっと、放課後に俺に会うのを楽しみにしてるんだ!!
と解釈した
まったく、はっきり言わずに考えさせるなんて、
可愛いやつだなぁ
よし、音楽室へ行ったら真っ先に前川に会いに行ってやろう!
音楽室へ駆け込み、前川の姿を見つけると、
俺は前川へ走り寄った
「前川!」
「あ、先輩!」
俺の方を向いて、期待に満ち溢れたような顔をする前川
「練習、頑張ろーな!」
俺はそう言うと、楽器庫へと駆けていった
よし!前川の顔を見て、やる気が充電されたぞ!
今日も夏コンに向けて頑張ろう!!
「え、あの、先輩……?」
そんな前川の呟きなど気付きもせずに───