「とはいえ、今現在あなたは学園の生徒たちに顔を知られてしまっています。この状態で理事長という立場になれば問題が起きかねない。しかし、あなたがガーディアンという特別な立場で卒業すれば……誰もが理事長という立場にふさわしいと認めるはずです」
理事長のじつの孫で、日向ほど幼くはない。
そして、この有栖川学園に入学できるほどの能力を持っていた。
「花乃香様へ招待状を送ったのは完全なる私の独断です。今は私が、秘書、教師統括者、執事、理事業務を請け負っておりますので、経営自体はまだ数年持つでしょう。しかし、ずっとこのままというわけにもいかない」
彼はそこで言葉を切り、「姫咲様」と懇願するようにあたしを見つめた。
「あなたは、私にとって……いえ、国にとっての希望なのです」
だからどうか、と続けた櫻井さんの瞳には、強い意志が宿っていた。
これまでたくさんの修羅場をくぐり抜けて、たくさんの苦労や後悔をしてきた人の瞳だった。
いちばん大変なはずなのに、なんでもないようにこれまで一人で背負ってきたのかと思うと……もうなにも言えなくなってしまう。