「日向は……あたしの、弟なの……?」
呆然と落としたあたしに同意するように、櫻井さんがゆっくりと顎を引いた。
「……あなたは日向様が生まれた時、まだ日本に帰ってはおられませんでしたよね?」
そう、あたしは日向様が生まれたとき日本にいなかった。
その前の父の事件があった時に一度帰国したけれど、仕事をすべてそっちのけで来てしまったから、お葬式を終えたらすぐに戻らなきゃいけなくて。
でも、事件が事件だっただけに、出来ることなら長期で休みをもらって改めて帰国するつもりだった。
父が亡くなってしまった今、母親のそばにいられるのはあたし以外にはいない。
そう思っていた……その矢先のことだった。
出産を終えた母の病態が突然悪化し、亡くなったと連絡がはいったのは。
その時点であたしはもう、だいぶ参っていた。
両親を立て続けに亡くせば無理もないと思う。
しかも、帰国したあたしにはさらなるショックが待っていて。
生まれたはずの弟の姿が……どこにもなかったんだ。