「日向様を出産した直後……入れ替わるように。不幸なことに旦那様もその少し前に事故で亡くなっており、理事長が引き取ると決意しなければ、日向様は施設へ送られるところでした」



恭也たちはそろって複雑そうな顔で聞いている。


けれどあたしは、悲しいとか悔しいとか、そういう気持ちよりも困惑の方が先立って頭が回らなくなっていた。



「ですが、理事長も立場が立場でした。有栖川学園の理事長は表に出ない……それは創設以来守られてきた暗黙事項。理事長が日向様をひきとるとなれば、その姿を世間に晒すことになる」



櫻井さんはそこで一度言葉を切って、少し言いづらそうに口ごもりながらやっとのことで口を開いた。



「そこで強行突破ですが……国に手助けを要請し、日向様を秘密下で引き取ることにしました」


「国ぃ!?」


「日向様が入院していた病院には理事長の存在を開示せず、名目上は一度施設へ送られるように手続きし、そのさなかで日向様をここへ連れてきたのです」



なんつーやり口だよ、と恭也が呆れたように零す。



「そう……だいぶ無茶をしたので、その際に関わった全ての人間に口止めをするまで手が回らなかった。──それによって、姫咲様。あなたは、きっと勘違いされていますね」



ビクッと体が反応した。


混乱と困惑で頭がいっぱいになる。