大人しかいない世界で、あたしは言われたことを淡々とこなすロボット同然の存在だった。


口答えすれば手が飛んでくる。失敗すれば殴られる。


そんな世界が嫌で、あたしは何もかもを捨てて逃げ出した。


その先に待っていたのは希望じゃない。


もっと大きな───絶望だった。



「……とまぁ話が逸れましたが、学園自体はそんな仕組みでずっと動いていたのです。特に不具合なく順調でした。──昨年までは」


「昨年まで……?」


「ええ……亡くなったのです。学園創設以来、ずっと学園の経営をしていた理事長が」



ちょっと、待って。


理事長がもう亡くなってる?



「ちょっと待て。どういうことだよ、それ」


「ということは今……理事長は?」



ついで声をあげた恭也と律くんへ視線を向け、櫻井さんはひどく言いづらそうに眉根を寄せた。