「学園を退学になる生徒にいちばん欠けているのは、その点なのです。天才ゆえに特別だったからこそ、助け合いや思いやりの精神が足りない。どうしても空気を読むということに慣れていない」



そうですね、と櫻井さんは一呼吸置く。



「まとめるなら、世渡り下手とでも言えばいいでしょうか。そう言った知恵や能力じゃどうしようもないことを、第二学園で学ぶことになります」


「助け合いや思いやり……空気を読むことを学ぶ……」


「逆にそう言ったことを一定以上に身につけてしまっている場合もありますね。姫咲様……あなたもそのひとりですよね」



どくん、と心臓が嫌な音を立てた。


みんなの視線が集中しているのがわかる。


呼吸がしづらい。……いつも、しづらかった。


櫻井さんの指摘はあながち間違ってない。


あたしは、空気を読まなければ生きていけない世界でずっと生きていたから。


それが姫咲花乃香という人間の価値だった。


言われたことをやる。

力だけが、能力だけが、必要とされる。


あたし自身を必要としてくれたことなんて一度だってない。