よし、と気を引き締めて扉を開けようと足を踏み出した。
──そのとき。
ガチャッとひとりでに開いた扉に驚いて2歩分後退すると、その向こうから予想外の人物が姿を現した。
「櫻井……さん……?」
しわ一つない黒のスーツを着こなし、美丈夫というのにふさわしい綺麗な顔にうっすらと微笑を浮かべるのは、あたしたちの身の回りの世話をしてくれている執事──櫻井さんだった。
驚いたのは、櫻井さんの登場だけじゃない。
彼の姿を見た瞬間、あんなに号泣していた日向がピタッと泣き止んで、今度は怖がるような仕草を見せたのだ。
「日向様、そんなに泣いていては喉をいためますよ」
穏やかな声音はいつも通り。
それでも、彼の存在感は……あたしを引き止めた時と同じで圧倒されるものがある。
恭也たちも驚いた様子だったけれど、その異様な雰囲気にすぐにあたしを背中へ隠すように前へ進みでた。
さすが、察しがいい。
あたしの前に並ぶ4人の背中を見て、なんて頼もしいメンバーなんだろう……と改めて実感せざるを得ない。