俺でさえ、覚えているのはほぼ偶然でしかない。
六年前は俺もユキもまだぎりぎり日本にいて、当時の時事問題について何かと調べていた時期だったから、知っているだけ。
国内で起こった事件じゃなければ俺たちだって注目することはなかったはずだし、今こうして記憶から蘇ることもなかった。
でももし今カノカが言ったことが事実だとするなら、カノカの父親はあの事故で……。
『あなたはそれを、殺人だと言った。犯罪者だって言った。……そう言われたら、あたしにはなにも言い返すことなんて出来ない。あのとき空でなにが起こったのかもわからないし、真実も永遠にわかることはないんだから』
『だからなんだっていうんです? 事実は事実デショ』
『ええ、でもあたしはそれを殺人だとも犯罪だとも思ってない。そして母親も……自殺なんかしてないし。ちょうどその事件と重なっちゃっただけで、死にたいなんてちっとも思ってなかった』
つまらなそうな顔をする葛鬼に、カノカは毅然と言い放つ。
きっと葛鬼にとっては、このカノカの様子は予想外だったんだろう。
過去に触れれば……意図的に嫌な記憶を掘り返せば簡単に潰せると思っていた相手が、こんなにも冷静に現実を受け止めていて。
そして自ら、その真実を語っているのだから。