普通に学校へ行って、友だちと遊んで、家族と夕飯を食べて──なんて生活をしてきたヤツは俺たちの中にはいない。


雪斗の過去しか知らない俺でも、それくらいは察しがつく。


一般的な〝普通〟とはかけ離れた日常。


ここに入学することの出来る天才の日常なんて、想像するよりもずっと過酷で、ずっと孤独なのだと……身をもって知っているから。


そのなかでも、とくにカノカは──。


ずば抜けた天才だというコイツの過去は、きっと。



『葛鬼がこのあいだ言ったことは全部、真実。今のあたしを作るのはあの過去ありきだし、現実から目をそらしたところで今さらどうにもならない。でもね、しょせんは〝その程度〟。あんたの知ってるあたしの過去には、もっと先の……本当の真実があるの』



聞いていいのか、と俺は応えを求めるようにユキを見る。


こちらの視線に気づいたユキも珍しく戸惑ったような目をしていた。


ただ、そこにいる誰もがここから立ち去ろうとはしない。