日向side




いつもよりもずっと高い視界のなかで、ぼくはぎゅっとこぶしを握りしめた。


──どうしてあのとき、カノカに『行かないで』って言えなかったんだろう。


……どうして。


どうして、ぼくを置いていくの……カノカ。



「チビ」


「っ……」



その声にハッと我に返る。



「……ん……?」



ボクを肩に乗せたまま歩いている恭也が、なにを考えているのかよくわからない瞳で訊いてくる。



「おまえ、あいつが好きか」



その問いかけはまたいつにも増して突拍子もなく、ボクは咄嗟に答えよどんでしまった。


訊かれていることの意味はわかる。


もちろん答えはひとつしかない。


でもボクはそれを伝える手段に乏しいのだ。


思考を言葉にして伝える、というのが苦手。


考えていることをちゃんと声に出して伝えることができない。


だから、カノカにも言えなかった。


たった一言でも良かったのに。


あの人に止められる前に、たった一言だけでも『行かないで』って言えていたら……カノカはいなくならなかったかもしれないのに。