「日向……」


「申し訳ありませんが、まだこんな時間ですので、日向くんはもう少しお休みしてもらいます。寝不足は体に障りますから」



日向を連れていくことは許さない。


そう言われているような気がして、改めて私はこれから自分が進む道の険しさを予感する。


もちろんはなから日向を連れていく気はなかったけれど、泣くのを必死で我慢している姿を見てしまうと、やっぱり心が痛んだ。



「……日向を、よろしくお願いします」



立ち上がり、私は櫻井さんに向かって深く頭を下げた。


はい、という声を聞くと同時に顔をあげ、最後に日向に「おやすみ、日向」と笑いかけてから、私はタッと地面を蹴る。


風で制服がなびく。


澄んだ空気は、今の気分に相応しくない。


でも、行くんだ。決着をつけに。


守りたいものを守るために───。


平坦ではない障害物だらけの森を駆け抜けながら、私は心の中でそっと囁いた。


──みんな、大好きだよ。