櫻井さんの瞳をじっと見据える。


数十秒のあいだ、なにかを探るように表情を変えなかった櫻井さんは、やがてふっと口元を緩めて仕方なさそうに目を閉じた。


そしてふたたび瞼を持ち上げた時にはもう元の櫻井さんに戻っていた。



「分かりました」



穏やかで優しいいつもの櫻井さんが小さく顎を引く。



「そこまで意思が固いのなら、私はもうこれ以上なにも言いません。あなたはあなたの選んだ道を進んでください」


「櫻井さん……」


「でも、ひとつだけ。道はいつだって枝分かれしているものです。大通りでもちゃんと脇道はある。脇道を通ると、思わぬところへ出られたりする。前だけを見て進んでいると、そういう出会いを見逃してしまうことがあります。お気を付けて」



櫻井さんはそう言うと、私にしがみついていた日向をそっと掬いとって抱きあげた。


イヤイヤと首を振る日向に櫻井さんがなにかを囁く。


すると日向は泣きそうな顔になったあと、じっと私を見つめてなにかを堪えるようにむっと唇を引き結んだ。