「やめましょう。私とあなた様が戦ったところでなんの利得にも成りません」
「じゃあ聞かせて。あなたはなんのためにあたしたちを監視してるの? ……誰の指示で動いてるの?」
あたしが引かないと分かったのか、櫻井さんは少し困った顔をした。
こんなシーンでも一向に余裕を崩さないのはそれだけの器量があるんだろう。
そうですね、と前置きして、櫻井さんはあたしを……そしてあたしの後ろを見た。
「正確には姫咲様と彼の監視ですかね」
「彼?」
櫻井さんの視線を追って振り向くと、しっかりと閉めたはずのマスターズ寮の扉がわずかに開いていた。
そこからこちらの様子を窺うようにしてそっと顔を出していたのは、いつもあたしにくっついているまだ幼い男の子。
「日向!?」
いつからそこに……!
思わず張り上げた声に驚いたのか、日向はびくっと肩を跳ねさせて、バツが悪そうに扉の影に隠れた。