「俺はね、姫ちゃん。ここにくる前、アメリカで医療を少し齧ってたんだよ」
「へ?」
「まぁ……姫ちゃんも同じだろうけど、飛び級ってやつでな。日本では24歳以下の医者は認められていないから、俺は今『医者』とは名乗れないんだが」
ぽかん、と目を見開いてしまった。
「そんなにびっくりしなくても、姫ちゃんのことだから、薄々気づいてたんじゃないか」
「え、全然……なんにも……」
「ははっ、そうかそうか」
はじめて聞くユキちゃんの過去。
たしかにメンバーの中でも随一頭が良いとは思っていたけれど、まさか医療という言葉が出てくるなんて。
あぁ、でもたしかに白衣が似合いそうではあるな、とまったく関係ないことを頭の片隅で思う。
「だから勝手だけど、俺はメンバーの体調管理を自分の仕事だと思ってる。万が一の時、頼れるやつがいるのといないのでは大違いだろ」
「……ユキちゃん……」
「そんな不安そうな顔をするな。大丈夫だから。……どこか痛いところはあるか?」
ベットに寝かされながら、あたしはじっとユキちゃんの瞳を見つめる。
この瞳でどれだけの人の闇を見てきたのかと思うと、ぞっとしてしまいそうだ。
だってあたしにせよ、ユキちゃんにせよ。
飛び級で『天才』と呼ばれるような子どもの末路はたいてい決まっている。
その闇に触れずに生きてくることなんて、不可能に近いんだから。