「……そうだな」
ユキちゃんは少し考えるような仕草をしてから、じっとこちらを観察しているその他大勢を振り返った。
「おい恭也、そんなとこで見てないで、俺の部屋から黒いバック持ってきてくれ」
「は? 黒いバック?」
「ほれ鍵。入り口はいって、すぐ右の棚にあるから」
いいから行ってこい、とユキちゃんの眼鏡の奥の瞳が圧をかける。
恭也のあからさまな睥睨も怖いけれど、ユキちゃんや律くんみたいな無言の圧力も充分怖い。
渋々と言った様子で、鍵を受け取った恭也が踵を返す。
「あと柚、氷枕準備できるか?」
「う、うん! それくらい僕にも出来るよ!」
「頼むよ。あと律はスポーツドリンクを用意してくれ。冷蔵庫に入ってるから。あ、でも冷たいままだと体が冷えちまうから、温めた方がいいな」
「……わかった」
さすがお母さん的確だなぁ……。
ぼんやりとした意識の中でそれを眺めていたら、ふと日向がぎゅうと抱きついてきた。
はっとして見下ろすと、今にも泣きそうな顔であたしを見上げている。