じょうろが木に衝突する直前、その木の影から男が素早く飛び出してきた。
もともと軌道が定められていたかのごとく、彼は地面を蹴ると空中で一回転、スタッと軽やかな音を立てて着地する。
その一連の動作は、まるで映像を見ているかのような華麗さで。
右サイドにすべて流されているカーキ色の特徴のある髪に目を留め、あたしはハッとした。
「あーあ、ボクのジョーロがぶっ壊れちゃった。かわいそーに」
まったく心のこもっていない、どこか面妖で背筋がぞくりとするような声。
間違いない。
……あれは、
「……葛鬼神楽か」
どうやら恭也も知っていたらしい。
気味の悪いものを見るような目で、彼───3年マスターズコース所属の葛鬼神楽を見据えて舌打ちをかました。
あたしは硬直している日向を起こして、自らも起き上がりながら、もはやただの鉄板に成り果てたじょうろを拾い上げるその男を睨みつける。
あれは、危険だ。直感ながらそう思う。
恭也も少なからず感じているのだろう、
警戒心丸出しのあたしとおびえる日向の前に立ちはだかるように一歩進みでて、ポキ、ポキ、と首を鳴らした。