「ちょっと寝不足なだけ。恭也もなんか飲む?」
「……いい、俺がやる」
「え?」
「お前そいつ抱えたままじゃ時間かかるだろ。ついでだ。ホットミルクもいれてやるよ」
あたしは今度こそ動きを止めて、恭也を凝視した。
ちょっと待ってよ、これ誰?
「ねえ影武者かなんか?」
「なわけねぇだろ。アホ」
だって、まさかこの恭也が……あの俺様野郎が自分から『俺がいれてやる』なんて言う日がくるなんて……!
感動して恭也の手元を見つめていると、なんだか動きがぎこちないことに気づく。
……あ、慣れてないのか。
深く掘り刻まれた眉間の皺が、ありありとそれを表していた。
いつもはユキちゃんがやってくれるし、そもそも恭也はそういう面倒なことはせずに自販機で買ってくるタイプだ。
おかげで、ただのホットミルクと自分用のコーヒーを作るだけなのに、
「おいカノカ、鍋はどこだ」
「これどうすんだ?」
「うおっ、入れ過ぎた」
いちいち尋ねてくるわ、脳内の声が垂れ流しで騒いでいるわで全然進まない。
むしろあたしが片手でやるよりも、断然時間がかかってしまっている。