教室は天国。

夏の間は教室に入る度に思う。


「鳴滝塾がシーボルト、松下村塾が吉田松陰、適塾が緒方洪庵。こんなの無理だ。死ぬ」


「それくらいは覚えろよ。ちなみに、それぞれ誰を輩出した?」

「わー俺が見ないようにしてたこと聞くなよ!てか、そんなとこまで出んの?」


「ワークの問題にあったけど……」

「終わった、俺の夏」

「はいはい、」



もっとつっこんででほしそうにしていたが、一々気にしていたら、終わるものも終わらなくなる。

適当にあしらいながら日本史のプリントは終わったので、化学のワークを取り出した。

化学のモル質量なんて将来絶対役に立たない計算に頭を悩ませる。

栗山的にはこっちの方が楽勝らしく、式に当てはめればいいだけなんて、首を絞めたくなるようなことをいつも言う。


こっちからしたら、どこにどれをあてはめるんだよって感じだ。


これこそ、本当に全国の化学嫌いな人を敵にまわしてしまえ。


お互いペンが進まないまま、もう一つ全然違う声が聞こえてきた。


「ねぇ春田って美咲のこと好きなんじゃない?」

「そんなことないでしょ」

やっぱり?
俺も同じこと思った。
一回も話したことない女子に共感した。


「だってさっきめっちゃ嬉しそうにしてたじゃん」

「あれは、同士見つけられて嬉しいみたいな感じだと思うんだけど」


いやいや、それ結構ポイント高くね?しかも有名じゃないやつなんて。

恋がはじまるには十分な要素だろ。



「それ、よくあるパターンじゃん!趣味が同じで、それからって」

「そうそう。春田なら漫画って言っても変な趣味してなさそうだし」


それは分かんねーよ?春田だってれっきとした男子高校生だぞ。てか変な趣味ってなんだよ、変な趣味って。



「なぁなぁ森山。ここ何?」

「Aじゃない?」