「黒瀬くん!」



図書室では見られないような資料集に目を通していると、若宮が慌てて入ってきた。


なんとも落ち着きがないやつだな。



「……なんだよ」


「これは生徒に言っていいことじゃ、ないんだけど……」



やけに勿体ぶる。


そこまで秘密事項なのか?



それなら、わざわざ俺に言う必要はないに決まってる。



「沢田さんが、転校するって……!」



…………は?



「どーいう……」


「今、呼ばれたのは沢田さんが転校したっていう説明だったんだ。ごめん、僕のせいで……」



若宮は申し訳なさそうに、視線を落とした。



いや、そんなことはどうでもいい。



どうしてだ?


なぜ、いきなり転校……?



俺になにか言ってくれてもいいじゃねーか。



「申し訳ねぇって思うなら、そこ通らせろ」


「え……あ、うん……」



若宮は出入口を開けてくれた。


俺はなにも言わず、準備室をあとにした。