【愛斗】

「ん?」

僕は、後ろを振り返る。

「今なにか……?」

誰かの声が聞こえた気がした。

空の色は茜色に染まり始めていて夕日が眩しかった。

「愛斗!みーつけた!」

「うわぁ!」

急に雪菜が僕の目の前に現れて、僕は後ろへと倒れる。

「あ、愛斗?!」

「いてて……」

僕は頭をさすりながら立ち上がる。

「ご、ごめんね愛斗!」

「大丈夫だよ」

雪菜は心配そうな目で僕を見てくる。

「本当に大丈夫だから」

「本当に?」

その時の雪菜の表情がとても可愛くて頬が熱くなる。

「ほ、ほら!奏佑たちのところに行こ?」

「うん!」

雪菜は僕の手を掴んで走り出す。

「奏佑!愛斗見つけた!」

雪菜は僕に微笑んでくれる。

「よしっ!全員見つかったし、そろそろ帰ろっか」

と奏佑が言った時――

「おい、お前ら!」

「ん?」

見た目からして悪ガキに見えた子たちは、僕たちに指をさす。

「そこは、俺様たちの縄張りだ!」

「また君たちか、前に言ったよね?公園は、みんなの物だって」

相手は小学五年生くらいに見えるけど、奏佑はそんなこと関係なく言い返す。

「んなこと関係ねぇよ!」

雪菜も負け時と言い返す。

「奏佑の言う通り、ここはみんなの場所だよ!」

「女は引っ込んでろ!」

「いたっ!」

三人の内の一人が、雪菜に向かって石を投げつける。

「雪菜!」

とっさに奏佑が雪菜の前に立つ。

「石を投げるのは、俺だけにしろ」

「何かっこつけてんだよ!」

三人は一斉に奏佑めがけって石を投げつけ始めた。

「そ、奏佑……」

僕は怖くて動けなかった。

「また……。僕は……」

僕はこのとき違和感を感じた。

「またって……。なに?」

僕は大切なことを忘れている気がする。

「僕は……」

何を忘れているんだ?

『思い出せ愛斗!今のお前がやるべきことはなんだ!』

ソレイユの言葉が僕の中で響いて、僕は近くにあった木の棒を取る。

「二人を……、虐めるなあ!」

剣道をやっていた時の感覚を思い出しつつ、僕は三人に木の棒を振り下ろす。

「いってぇ!」

「な、なんだよこいつ!」

「もう!守られるなんて嫌なんだ!」

もう誰かの後ろに居るなんて嫌だ。

見ているだけなんて嫌だ。

僕は大切な人たちを守れる力が欲しいんだ!

視界が光に包まれた時、僕は違う空間にいた。

「あ、あれ?僕は一体……」

体は、もとの大きさに戻ってる。

周りを見回しても建物一つない。

僕は、水面に立っていて上には夕焼け空が広がっていた。