【雪菜】

『そいつ、俺の術に完璧はまったな』

『え?!』

スロウスの言葉に、私の胸が大きく高鳴る。

『さて、時間の問題になってきたよシアン。愛斗は今ごろ懐かしい思い出の中だ。あと数分もすれば、あっちから戻ってこれなくなるよ』

アクはニヤリと笑う。

私は愛斗に駆け寄り体を揺らす。

「愛斗起きて!このままじゃ、帰ってこれなくなっちゃうよ!」

でも、いくら愛斗に呼びかけても起きる気配は感じられない。

やっぱりスロウスを倒さないといけないの?

それとも私が……。

『いくら呼びかけても無駄だ。そいつの意識は完璧に俺の術にはまった。お前が俺を倒すか、アクに付いていくか、助けられる選択肢は二つだ』

スロウスはあくびをして私たちを見下ろす。

『俺的にはめんどくさい闘いは避けて、素直にシアンに来てもらった方が助かるけど』

『そんなに帰って早く寝たいの?』

アクの質問にスロウスは呆れた目を向ける。

『仕方ないだろ。眠かった時にあんたから命令が来たんだから』

『それは悪かったよ。グリードにでも任せれば良かったかな?』

『兄さんだと全員殺しかねないから駄目だ』

グリード……。

その名前はもちろん聞き覚えがある。

強欲の妖精グリード。

七つの大罪を束ねる長男にして、七つの大罪最強の男。

一番最強最悪の男だ。

『そろそろ考えはまとまったかな?シアン?』

『私は……』

「駄目だよシアン!」

『雪菜?』

シアンの声が私の中で響く。

「アクなんかに付いていっちゃ駄目だよ!そんなの、アクの思うつぼだよ!」

『けど、私が行けば愛斗とソレイユは……』

「シアンっ!」

雪菜の声にビクッとなる。