ヴィーナスは、心配した表情を浮かべながらも、どこかホッとしたように見えた。

隣には雪菜が寝ていて、望美が雪菜の髪を優しく撫でていた。

『私は……?』

私はヴィーナスに聞いてみる。

『ねぇ、私はどうしたの?』

『……泉の近くで倒れていたのよ』

『倒れていた?』

何で倒れていたんだろう?

何も思い出せない。

『でも良かった。あなたが無事で』

ヴィーナスは、優しく私の体を抱きしめてくれた。

そう……。

私は、すっかりあの時の記憶を忘れてしまっていたんだ。

そして、私から力を半分奪って記憶を改ざんしたのは、紛れもない私の唯一のお姉ちゃんであるリヤンだろう。

でも、何の為に私の記憶を……?

『ヴィーナスは、壊れてしまった雪菜の心を修復するために、錠前で雪菜の心を固定した。それ以上、壊れないためにも』

「じゃあ、あの時の記憶は……」

『錠前で心を閉じられた時に生じたものだろうね。ヴィーナスは、鍵はルルの中に、錠前はシアンの中に隠したんだ』

『じゃあ、シアンの中には……』

『世界を壊す錠前が入っている』

『っ!』

アクはゆっくりと階段を下りて来ると言う。

『それを知った時、まさか俺を殺すためだけに生み出されたシアンに、また別の使い道があるって思った』

「アクを殺すためだけに生み出された存在?」

雪菜の言葉に私ははっとした。

私自身のことについては、雪菜には話していない。