「……愛斗?」

「泣いちゃだめだよ雪菜ちゃん、幸せが逃げちゃうから」

「幸せが逃げちゃうの?」

「う、うん!」

本当は溜め息を吐いたらなんだけど思いつつ、とっさに僕はそう言ってしまっていた。

「だから、笑わないとだめだよ」

あの時の僕は、直ぐにでも雪菜に泣き止んでほしくてあんなことを言ったんだと思う。

「じゃあ、愛斗が私を笑顔にしてよ」

「ぼ、僕が?!」

なんて無茶振りな……。

僕は考えに考えて立ち上がる。

「愛斗?」

「雪菜ちゃん、こっち来て」

僕はm雪菜の手を握りながら歩き出す。

「どこ行くの?」

「いいところだよ」

裏山の奥に行くと視界が開けた場所に出た。

「空見上げて見て?」

「空?」

僕の言葉を聞いた雪菜は言われた通り空を見上げた。

すると、目を輝かせて歓声をあげた。

「す、すごーい!」

空には無数の星々が輝いており、周りには街灯も何もないから、いつもより星が綺麗に見えた。

ここは、僕の秘密の場所でもあって、嫌なことがあった時はこうしてたまに星を見に来ることがあるんだ。

「すごい、すごいよっ!こんなの初めて見た!」

「ね?笑顔になれたでしょ?」

「あっ、ほんとだ!」

僕と雪菜は、顔を見合わせて笑うと一緒に星空を見上げた。

「ねぇ雪菜ちゃん、僕も一緒に謝りに行くから望美さんに謝ろ?」

「うん……」

その後僕たちは、雪菜の家に帰った。

僕たちは怒られる覚悟で帰ったんだけど、僕たちの姿を見た望美さんが怒ることはなかった。

望美さんは、僕たちの姿をみて強く抱きしめてくれたんだ。

「良かった雪菜、無事に帰ってきて!」

「お母さん、怒ってないの?」

「怒ってないよ、きつく言っちゃってごめんね」

その言葉を聞いた雪菜も、泣きそうになっていたけど涙を堪えていた。

「ありがとう愛斗君、雪菜を送ってくれて」

「はい」

「あのね愛斗!」

雪菜は、僕の手を掴み微笑むと言った。

「笑顔にしてくれてありがとう。苦しくなった時や、悲しくなった時は、あそこに行くようにするね」

「どうして?」

「愛斗が笑顔にしてくれるから」

雪菜の言葉に、僕の頬がカァっと赤くなった。

もちろん雪菜を送り届けて家に帰った僕は、母さんに散々怒られた。