でも、やっぱり好きな人いたんだね。

「んっ?」

今胸がチクリと痛んだ気がした。

「気のせいかな?」

でも今は何ともない。

「その人って、誰ですか?」

「ごめん、それは教えられない」

あー、残念……。

このままいけば愛斗の好きな人分かるかと思ったけど、やっぱ簡単には口を割らないよね。

『可哀想な愛斗……』

シアンは、小さくそう呟いたことに私は気が付かなかった。

「……分かりました。それなら、仕方ないですね」

「ごめんね」

「いえ、気持ちを伝えることができてすっきりしました。先輩も、伝わるといいですね、先輩の気持ちが好きな人に」

「……そうだね」

愛斗は苦笑しながら応えていた。

今の愛斗の表情、とても寂しそうな表情だった。

「もしかして愛斗の好きな人って、気持ちを伝えることができない人?」

そう思った私はその場から離れ、愛斗に見つからないように学校を出た。

「……」

そして無言のまま家へと向かう。

『良かったの?あのまま声かけなくて』

「うん、何か声かけづらいからさ」

あんな表情をしている愛斗に、なんて言葉をかけたらいいのか分からなかった。

それに、私が覗いていたなんて知ったら驚くだろうし。

「今日見たことは忘れよう!愛斗のためにも」

『愛斗のため……ねぇ』

家に着き、玄関を開けて家の中へと入る。

「ただいま」

「おかえりなさい雪菜」

奥の部屋からお母さんの声が聞こえた。

私はお母さんのいるリビングへと向かう。

「ただいまお母さん」

「おかえりなさい雪菜、あなたが帰って直ぐここに来るなんて珍しいわね」

「そ、そうかな?」

私の様子が変なことに気がついたのか、お母さんは絵を描く手を止めて私の傍に来る。