私は、鞄を持って立ち上がり、優空君の席の方へと振り返る。

「やっぱりいない……」

優空君はいつも、授業が全部終わると忽然と姿を消す。

いつも気がついた時には、彼はそこにはもういない。

「いつも何処に行ってるんだろ?」

そう思いながら私は教室を出た。

階段を下りて、靴箱の角を曲がろうとした時、突然女の子の声が聞こえた。

「あなたが好きです!」

「……え?!」

女の子の声を聞いて、思わず隠れてしまった。

「も、もしかしてこれって……」

『生告白ね』

「シアン、どこでその言葉覚えたの?!」

私は声を潜めてシアンにそう言い、静かに生告白現場へと近づいて行く。

別に気になるとか、相手は誰とかそんなの気にならないけど、ここを通らないと靴箱に行けないから!

あ、でも今通るのはやっぱりまずいかな?

また改めて来ようと思った時、聞き覚えのある声が私の耳に届いた。

「ごめん」

「っ!」

私は、振り返って靴箱の影から告白の様子を伺った。

そして、そこに居たのは――

「あ、愛斗?!」

なんで愛斗がこんなところにいるの?!

さっき私より先に帰ったのに……。

『だから急いでたわけね』

「でも、隠すことないのに」

『隠したがるわよ』

「どうして?」

私の質問にシアンは頭を左右に振った。

しかも、よく見れば愛斗に告白してる女の子って、剣道部のマネージャーじゃないっけ?

「愛斗って、モテるんだ……」

初めてそう思った時、変な違和感が私の中で生まれた。

「なに……?」

なんかモヤモヤするっていうか、何ていうか……。

「私じゃ、駄目ですか……?」

私は、更に聞き耳を立てた。

「駄目とかそんなことないけど」

「じゃあ私頑張ります!愛斗先輩に相応しい彼女になるように努力します!」

あー、これは完全に押されてるなあ愛斗。

こんなこと言われたら、愛斗でも断るの難しいんじゃないかな?

「……君の気持ちは凄く嬉しいよ。でも……」

愛斗は、真剣な顔で女の子に言う。

「僕、好きな人いるから」

「好きな人……?」

前に一度愛斗に聞いたことがあった。

好きな人はいるのかって。

でも、愛斗はいないと強く言い張っていた。