柔らかい野球ボールが机の端にぶつかって落ちた。
机と机の間をゆっくり転がっていく。
「ニシミヤさん、ごめーん」と教室の後ろにいた男の子が呼んだ。
またニシミヤと呼ばれた。
名前が全く出てこないよりはいいか。
わたしがニシノミヤだろうが、ニシミヤだろうが、あまり関係ない気がするから言う必要もない。
それはニシノミヤがサトウでも大差のないように感じるから不思議だ。
名前は意味を持たない。
関係性のない人にとっては、そのときそのとき、わたしが呼ばれたのだと気づける何かがあればいいような気がする。
視線やおーいだけでも充分伝えられる。
大丈夫とか、気をつかった言葉は声に出せず、それを誤魔化すように半笑いでボールを投げた。
そのとき、「ニシノミヤさんだろ」と声がした。