「二嶋ー。このパンいらない?お腹いっぱいでさ」
この親しみを込めて、二嶋ーと呼ぶのは、わたしの後ろの席の松井才伽(マツイサイカ)ちゃん。
すらっとした美人さんって感じで大人っぽい。
明るい髪はギャルっぽくて、わたしが今まであまり関わりを持つこともなかったタイプの女の子。
「パンツ?」と、二嶋くんは言った。
笑いそうになるのをお腹に力を入れてこらえる。
最近こなれてきたと思えるのは、笑いを耐える筋力の使い方と、人間関係の分析。
二嶋くんはなんでだかわからないけど、聞き間違いが多くて、たまに確信犯かと思う。
だけど、きっと天然なんだろうな、と最近はそう分析している。
「なんであたしがあんたにパンツ売らなきゃいけないのよ。今ならジャムパンにアンパンがついて200円」
「ぼったくり。この小さいパンで200円は詐欺だろ」
「じゃあ120円でいいわ。買え」と、強制的に押し付けようとしてるサイカちゃん。
仲、いいんだろうな。
中学校が同じというのは二人の会話から聞こえて知った。
才伽ちゃんは二嶋くんとよく話すけど、女の子とはつるまない。
でもわたしとはたぶん違っていて、つるみたいのに入れないではなく、あえてつるまないようにしているように見えた。
誰にでも声をかけられるし、わたしにだって用があれば二嶋くんに話しかけるみたいに声をかけてくれる。
松井さんと呼んだら、下の名前でいいよなんてすんなり口にした。
だからとっても大人っぽい。