あたしの耳に電車が走る音が聞こえて来た。


電車は左側から来るようだ。


あたしは線路の左へと視線を向ける。


しかし左側には女性がいたからハッキリと見る事はできなかった。


と、その刹那。


女性の体が動いた。


弾かれたように線路内へと侵入する。


「あ……」


踏切が下がっている間は線路に入っちゃダメなんだよ。


心の中でそう思うけれど、声に出している時間はなかった。


次の瞬間、女性の体は電車にぶつかりその原型を無くしていた。


あたしの手から風船が飛んでいく。


肉片が飛んできてあたしの頬にぶつかった。


電車が急ブレーキをかけるけれど、もう遅い。


女性だった一部があちこちに飛び散って、後に残ったのは夏のむせるような臭いと、血肉の生臭い香りだけだった……。