「とても長かったよ」


目の前で燃え盛る木々を見ながら、聖也はそう言った。


「なにが?」


「俺の人生。たった17年だったけれど、とても長かったんだ」


それは予知夢という能力を持ってしまったがための、宿命。


「楽しい事より辛い事の方が多かった」


人の死ぬ瞬間を何度見て来ただろう。


何度助けたいと願い、何度失敗して傷付いて来ただろう。


あたしは聖也の胸に顔をうずめた。


聖也の心音は、まだしっかりしている。


聖也は今この瞬間に、生きている。


「前向きに前向きに、そればっかりで、自分のやりたい事なんて見つけられなかった」


聖也の手があたしの頭を優しく撫でた。


炎の熱が体に伝わって来るのを感じた。


バスに引火したのかもしれない。


「それでも、よかったと思える事が1つあるんだ」


その言葉にあたしは聖也を見た。


聖也の頬は濡れていて、目は潤んでいる。


あたしが初めて見る聖也の涙だった。


「野乃花に出会えたこと。


同じような能力を持つ人と出会えて、分かり合えて、我慢していたこと、考えていたことも全部話すことができて……その時だけ、自分が自分になれたみたいだった」


「聖也……」


あたしもだよ。


あたしも聖也と出会えたから、また自分の力を真正面から受け止めようと思えたんだよ。


だけど、それは声にならなかった。


炎はバスを包み込み、熱が聖也の涙まで蒸発させていく。


あたしは言葉のかわりに聖也の唇に自分の唇を近づけた。


お互いに熱を帯びた唇が重なり合う。


その瞬間、あたしたちを乗せたバスは大きな音を出して爆発したのだった……。