だけど、涙は流さない。


グッと奥に押し込めて、あたしはほほ笑んでいた。


死ぬとわかっている聖也が泣いていないのに、あたしだけ泣く事はできない。


「死ぬなら、やるだけやって死にたいってこと?」


そう聞くと、聖也は大きく頷いた。


その表情はとても真剣で、思わず一粒の涙が流れてしまった。


あたしは慌てて手の甲で涙をぬぐった。


どこまでも前向きで、どこまでもチャレンジし続ける聖也の姿勢に、呆れてしまう。


「好きにすればいいじゃん」


あたしはそっぽを向いてそう言った。


バスに乗らなければ恐怖と絶望に包まれて死ぬことはないかもしれないのに。


それなのに、聖也はその選択肢さえも選ばない。


バスに乗り、全員で助かる道を選んぶんだ。


あたしは涙をぬぐい、そして笑顔を浮かべたのだった。