「そんなこと……」


『ないよ』そう続けようとした唇を、野乃花の唇が塞いだ。


一瞬、時間が止まる。


周囲の音は何も聞こえなくなってこの世に俺と野乃花しかいないような感じ。


俺は思わず野乃花の体を抱きしめていた。


昨日はどうにか我慢したのに、こんな所でキスしてくるなんて反則だ。


野乃花の体は柔らかくて、それでも折れそうなほど華奢だった。


身長さがあるから少し身をかがめてその体を抱きしめる。


「聖也の心臓、すごく早いよ」


俺の胸にぴったりと耳をくっつけて野乃花が言う。


「仕方ないだろ」


俺はぶっきらぼうにそう返事をして、野乃花から身を離した。


白昼堂々とラブシーンを繰り広げるわけにもいかない。


俺の理性の問題もある。


「じゃぁ、気を付けて帰れよ」


俺は野乃花にそう言うと、手を振って背を向けたのだった。