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そして、俺たちはまた俺の部屋へと戻ってきていた。


部屋に入った瞬間、野乃花の香りが鼻をかすめる。


一日ここにいただけで人の香りは残るんだと、初めて知った。


「ごめん、なんか無理やり引き止めた感じになって」


「ううん、全然」


野乃花は左右に首を振ってそう言った。


そんな仕草を見ていると、途端に抱きしめたい衝動に駆られた。


一度失ってしまった恋人を思い出し、その気持ちをグッと抑え込む。


野乃花は失恋してすぐだ。


その気持ちに付け込むようなこともしたくはなかった。


もっと自然に近づけるまで待とう。


そう思った時だった、2人のスマホがほぼ同時に鳴りはじめたのだ。


「なんだろう?」


野乃花が首を傾げてスマホを確認する。


俺も、自分のスマホを手に取った。


クラスメートからメールが来ている。


⦅次の登校日には俺たちのクラスだけバス旅行に行くんだってよ!⦆


そんな内容と共に、詳しい事が書かれている。


クラス全員で少し遠い場所にある博物館に行く日程になっているようだ。


「野乃花、メールなんだった?」


「結菜から。次の登校日はクラスでバス旅行になったんだって」


俺と同じようなメールが届いているみたいだ。