「……嬉しい……」


素直にそんな言葉が口をついて出て、あたしはハッとした。


「本当に?」


聖也は驚いたようにあたしを見る。


「うん……。でも、あたし、ごめん。和が亡くなったばかりなのに、こんな事言って」


慌ててそう言い、課題に視線を戻す。


しかし、聖也にペンを持っている右手を握られて、あたしは視線を聖也へ戻すことになってしまった。


「どうして? あんなヤツの事まだ気になる?」


そう聞かれてあたしは返事に詰まってしまった。


和があたしに何をしようとしていたのか、聖也はそれをすべて知っている。


和の事を引きずる要素なんてどこにもない事を、聖也は知っている。


「あたし、好きって気持ちがどういうものなのか、なんだかわからなくなっちゃって……」


あたしは息を吐き出してそう言った。


和の事が好きだった。


それなのにあんな裏切られ方をしてしまい、好きと言う感情がわからなくなっていた。


誰かを好きになって、また同じように傷ついたらどうしよう。


それなら好きな人なんて作らない方がいい。


自分の能力から目をそむけたように、恋愛からも目をそむければいい。


そんな、自己保身が働いているのかもしれない。