「先生は今病院でしょう? 聖也が病院へ行っても手術室に入れてもらえるわけでもないし、なにもできないよ」


「そんなのわかってる!!」


聖也の強い口調にあたしは驚いて口を閉じてしまった。


聖也が大きな声を上げている所を今初めて見た気がする。


「助からないって、知ってる! だけどなにもせずにほっとく事はできないだろ!!」


勢いに任せて聖也は言った。


あたしは無言で聖也を見ていた。


沈黙があたしたちの間に下りて来る。


「聖也……今なんて言ったの?」


そう聞くと、聖也はあたしを見てそしてハッとしたように口元に手を当てた。


自分が失敗した事を聖也が気が付いたのだ。


「なんで、丸山先生が助からないって……」


「言い間違えただけ。悪かった」


あたしが聞き終わる前に聖也はそう言い、あたしに背を向けて歩き出していた。


あたしは聖也の後を追いかける。


聖也はなにかを知っている。


もしかしたら、あたしと同じで番号札が見えているのかもしれない。


そんな考えで、胸は高鳴った。


「あたしも、丸山先生のところへ行く」


あたしはそう言い、聖也は何も言わなかったのだった。