礼がいなくなった教室はボスを失った野生動物の群れのようだった。


それは悪い意味ではなく、みんな好き好きに個性を出す事ができるようになったという意味だった。


大人しかったクラスメートたちもよく会話に参加するようになり、礼にこびていたクラスメートたちは周囲に溶け込み始めた。


本来あるべきクラスの姿はこうだったのかもしれない。


そんな風にさえ感じられる。


あたしと結菜の間に特別な変化はなかったけれど、それでも心の中が軽くなったような気がしていた。


「なぁ、野乃花」


二時間目の授業の準備をしていると、和が声をかけて来た。


「なに？」


ここ最近あまり会話をしていなかったから、無意識の内に頬が赤くなってしまう。


「今日の放課後、開いてないか？」


その言葉にあたしは一瞬とまどった。


どう返事をしようか困ってしまう。


和は礼が撮ったあたしと聖也の写真を見ているはずだ。


「あ、彼氏がいるならいいけど」


咄嗟にそう言った和に、あたしは左右に首をふった。


「彼氏なんていない！」


そう否定したあたしに和は一瞬驚いたように目を見開き、そしてすぐにほほ笑んだ。