礼は自分のやった事を全く理解していない。


チエさんが自殺をした時も、そして今も。


反省なんて一度もしていないのだろう。


「行こう、野乃花」


聖也があたしの手を握り、大股に歩き出した。


その表情には怒りが露わになっている。


「礼」


すぐ後ろまできてあたしは声をかけた。


礼は驚いたように振り返り、そして「あぁ、なに?」と、平然とした表情で聞いて来たのだ。


「あんた、自分がなにしたかわかってんの!?」


あたしは礼の胸倉をつかみ、そう怒鳴った。


自分の気持ちを我慢することも限界だった。


礼の家が資産家でもそんな事関係ない。


礼は人間として最悪だ。


「なによ、助かったんだからいいでしょ!?」


礼はあたしの手を振りほどこうと必死だ。


しかし礼の一言は聖也の逆鱗に触れた。


聖也の彼女は、助からなかったのだから。


「助かればいい。お前、本当にそう思ってんのか?」


聖也の低い声が響き礼が動きを止めた。


あたしは胸倉をつかんでいた手を離し、礼を睨み付ける。


礼も、チエさんを自殺まで追い込んだ事は覚えているはずだ。