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若いスーツ姿の男性があたしの隣を颯爽を通り過ぎていく。


番号札は二桁。


病気や自殺には見えないから、きっと事故か事件だろう。


ぼんやりと考えながら学校まで歩く。


「最近、ぼーっとしてるな」


後ろからそう声をかけられて振り返ると、そこには聖也が立っていた。


「聖也……」


聖也に面と向かって話かけられるのは、一週間ぶりだった。


あの日、公園で会話して以来だ。


「俺の家の隣には学生用のアパートがあるんだ」


「へ?」


不意に話し始めた聖也にあたしは首を傾げた。


「アパートの2階に住む女子大生が事故死した」


その言葉にあたしは言葉を詰まらせた。


聖也はきっとその場面を予知夢で見たのだろう。


「そう……」


「俺は夢を見てから、『助ける』という感情を抜きにしてその大学生と会話をしたんだ。感情を殺すのは難しい事だったけれど、その人の死ぬ時間は丸1日ずれたんだ」


聖也の言葉にあたしは目を見開いた。


「会話、しただけで?」


「あぁ。ほんの数分間の立ち話だ」


「それってすごい……」


あたしは本心でそう言っていた。


聡さんを助けたいと必死だった時は、ずっと聡さんのそばにいた。


それでも聡さんは自殺にしてしまったんだ。


「やっぱり、俺たちにおこがましい気持ちがなければ未来が変わるのかもしれない」


聖也はそう言って、目を輝かせた。