「もちろんだよ。お嬢ちゃんはこの花屋一番のお客さんなんだから」

 顔をパッとかがやかせた私を見て、おじさんは笑う。その笑顔にさっきのようなさびしさは感じられなかった。

「明日も来ていい!?」

 期待を込めてそう言ったとたん、おじさんの顔に寂しさが戻った。

「……明日からここは花屋じゃなくなるんだよ」

 おじさんの声を聞いたのはこれが最後で、その言葉はしばらく私の耳にこびり付いてはなれなかった。



 家に帰ると、リビングでお兄ちゃんがテレビを見ていた。

「また花屋に行ってたのか」

 ふりむいて、私が持っている大きな花束を見て目をまんまるくする。

「それタダでもらったのか!?」

「そうよ。きれいでしょ」

 私は花束をだきしめた。花びらが何枚か散って落ちる。

「あぁ。でもそんなにいっぱいあるのに、赤い花は一本もないんだな。お前赤色好きだろ」

 私は少しおどろいた。そんな細かいことにお兄ちゃんが気づくとは思わなかった。

「赤い花は全部売れちゃったんだって。……でもいいの」

 この花束は、ものすごくきれいだ。