正直、秋奈が勝てるなんて思ってなかった。
だから、ずっと逃げろって叫び続けていた。
なのに、秋奈は何人に囲まれても木刀1本で軽々と倒して行ってしまった。
幹部の奴らに捕まった時はぞっとしたけど、それすら跳ね除けて、さっきまでとは比べ物にならないほどの力でねじ伏せてしまった。
秋奈は、一体何者なんだ?
身長も高いとは言えないし、だからと言って鍛えているわけでもないはず。
あんな細い腕からは信じられないような力が出て、男たちを倒した。
それに、あの気…。殺気、狂気とも言えるような禍々しい気配。
人が傷つくのを歓喜していたようなあの笑み。
まるで違う人格が秋奈の体を乗っ取っていたような…。
『ここに、何かいるのかもしれない』
だいぶ前、秋奈が言っていたことを不意に思い出す。
自分の胸に手を置いて、悲しげに笑う秋奈の横顔を…。
『またにね、自分を見失うの。やめたいのに、止まってくれない』
『やめてって言っても聞かないってこと?』
頷いた秋奈は、名前も知らないからと言っていた。