「夏樹、昨日の子さ。ここから逃げ出そうとした奴なんだよね」

 リツキの声が少し遠くで聞こえる。

 …昨日って、あのガキのこと、なのか?

 なら、俺はリツキが制裁を加えたそいつを逃がしたってことか…。

「先輩、立ってくださいよ!」

「ッ…ぐ」

「謝んなきゃ、終わらないよ?」

 なら、1回蹴るのやめろよ。

 立とうとすれば膝を払われ、口を開こうとすれば顔を殴られて口を開けない。

 あぁ、何バカやってんだろ。俺…。

 リツキの罠に引っかかって、ボコられて…。だっせぇ…。

「やめろ」

 どれぐらい時間がたったか分からない。

 だけど、兄貴の一言で止まなかった衝撃が唐突に止む。

 でも、全身が痛くて立てねぇし、動けねぇ…。

 何とかつなぐ荒い呼吸だけが部屋に響く。