「…秋奈さん」
「ッ…」
不意に呼ばれた名前。
顔を上げて、裏口を見ればドア枠に背を預けた直斗さんが私を見ていた。
涙をぬぐって直斗さんの方を見れば、直斗さんは私から視線を逸らす。
「その様子じゃ、記憶も戻ったんですよね」
「…うん」
「よかった。山下には止められてましたけど、あんたには話したかったことがある」
「…それは、夏の過去のこと?それとも、直斗さんのこと?」
「両方、です。…たまり場で話しませんか」
「…分かった」
気づいてた。お母さんの目を盗んでここに来ていた時、直斗さんが何か言いたそうな顔で私を見ていたこと。
でも、近くに来ても他に誰かいる状態で話をしようとしなかったことも。
今しか聞くチャンスはないのかもしれない。
お父さんはまだ接客をしてるみたいだし、今のうちかな。
裏口から急いで出て、直斗さんと人目を盗んでたまり場に向かった。