「…とにかく、店の奥で休め。すぐに母さんと病院に」
「大丈夫。別に何ともないから」
「でもな」
「ちょっと考えたいから、休ませて」
「…分かった。とにかく、店に」
お父さんはやっぱり冷静みたいだ。
裏口から店の奥の部屋に入る。そこで休むつもりで座ると、お父さんはお客さんの声に気づいてお店に飛んでいく。
1人になって、ため息をついた。
唇に、人差し指で触れる。…夏。
『秋奈…』
あんなに悲しそうな声で呼ぶなら、今すぐ帰ってきてよ。
あんなに縋って来るなら、なんで一緒に帰って来なかったの。
なんで、何も言ってくれなかったの…。
「バカ夏…」
溢れて止まらない涙が熱い。
ぬぐってもぬぐってもこぼれる涙はしょっぱくて、余計空しくなっていくだけなのに。
声を押し殺して、泣き続けた。