「え、でも…」

「分かってんのか。ここが、紫炎が、どんだけ汚ねぇ場所か」

 まだ、引き返せる。

 完全にすべてを知る前に抜ければ、まだ何とかなる。

「だ、だって、夏樹さんだって」

「俺は…抜けたくても、逃げれないから」

「え?」

「…だから、逃げろ。ここに来る意味はねぇよ」

 リツキに報告してない今、こいつが紫炎を抜けるには絶好の機会だ。

 警察に捕まったとか適当にはぐらかせば、入りたての中学生なんかすぐに忘れられる。

 へました奴をまた入れるほどリツキはバカじゃねぇし。

 しばらく俺を見てた中学生はいきなり自嘲を浮かべる。

「行く場所、ないんです」

「は?」

「…僕の兄ちゃん、捕まって。家賃払えなくなって、追い出されたんです」

「…だとしても、紫炎にはこれ以上留まるな」

「なら、どこに行けって言うんですか!!頼れる人も、誰もいないんです!!リツキさんに拾ってもらって、俺はもう…」

 どうしてか過去の自分を思い出す。

 何も知らなくて、ただ生きるのに必死だったころの自分を…。

 でも、だからこそ…。