「夏樹、どこ行こうとしてんだ」

「…どこだろうな」

「夏樹」

「…唯一言えるのは、秋奈と瞬桜には絶対に踏み込んでほしくねぇところ」

「なら、お前も踏み込むな」

 ふざけんな。
 勉強もまともにできない、宿題もテスト勉強も1人じゃやりもしなかったお前を2年面倒見てきた苦労が水の泡になったらどうしてくれんだよ。

 それに、お前を引っ張り続けた秋の手を離そうってのは、許せない。

 夏樹の言う場所が、このまま平穏に学校に通い続けられるような場所とはとても思えない。

 そこへ行こうとするなんて、どうかしてんだろ、こいつ…。

「あははっ…そう、できたらどんなによかったか」

「…夏樹」

 なんで、諦めた顔しかしない。

 なんで、抗おうとする気力がない。

 なんで、捨てようとするんだよ。

 夏樹は表情を切り替えて、笑う。

 いつもと同じように、バカみたいに、笑う。

「俺戻るな。でんじぃに怒られる」

「夏樹!」

 呼び止めても振り返らなかった夏樹は、まっすぐ商店街に向かって走って行ってしまった。