「…秋、行くぞ」

「で、でも…」

「いいから!」

 状況を見つめていた瞬が逃げる選択を取ったことに思わず反論したけど、それすら聞き入れてもらえずに背中を押される。

 男の子を見れば、男の子は既に私たちのことなんか眼中にないように視線すら向けてこない。

「俺なんか、どこでのたれ死んでも誰も困らない」

 不意に耳に飛び込んだ言葉。

 振り返ると、危うい光を持った瞳が4人を睨んでいた…。

 瞬に押されて走る。後ろから男の人の怒鳴り声が聞こえてきたけど、その直後鈍く重い音が聞こえてくる。

 振り返らず路地を駆け抜ける。

 足が重くなってきた頃、塾のある大通りまで戻って来れた。

 振り返っても、さっきの男の子も男の人もいない。

 息を整えながらも、さっき私たちを庇ってくれた男の子のことが気になってしょうがない。

 4対1なんて絶対無理だ。助けなきゃ、でもどうやって…。

「秋、帰るぞ」

「ッ瞬、正気!?あの男の子が…」

「あいつも、あいつらとそう変わらない不良だろ。不良同士のケンカに関わるな」

「助けてくれたんだよ!?見殺しにしろって言うの!?」

 遠回りでも明るい道で家に帰ろうとする瞬に抵抗してその場に留まる。

 瞬は表情を歪ませて、家とは反対方向に歩き出す。その先は交番だ。

 少しだけ安心して瞬の背を慌てて追いかける。